五倍子染め実験

石徹白の染め材の中でも、採れる量がまだ安定しなくて貴重なもの。

それは「五倍子」です。草木染めをやってきた者として憧れる染め材です。数年前、たまたま山に出かけた時に石徹白の山に五倍子があることを発見して興奮!これは虫がヌルデという木に巣を作るときに、木が(葉っぱ?)が変形するもので、「虫コブ」とも呼ばれています。

いつかはここで採取した五倍子で染めてみたいと思ってきました。

私にとって草木染めをすることはこの土地とつながること。
山の中の一定の環境下でしか育たない五倍子を使って染めるということは、山のことを知ること、山の環境を守っていくことになります。これまで、ヒメジオンや栗のイガなど里にあるものを主に使っているので、山のことを学ぶ一つのきっかけになれば、という思いもあって五倍子に惹かれてきました。

五倍子は、単独で染めるのではなくて、何かと重ね合わせることで濃い色を出していきます。

今回は私たちの定番色、栗で染めた鉄媒染のグレーと掛け合わせてどのような色味になるのか実験をしてみました。

五倍子は去年山で採ってきたものを使いました。干してあったものを細かく砕いて、ネットに入れて煮出します。

液の色自体はベージュっぽくてそれほど色はありません。
鉄媒染でグレーになったシャツを染め重ねたので、その色が液の中に落ちてきて、全体グレーがかった染め液になっていました。

こうして煮染めしたものを鉄媒染していきます。

自家製の鉄焙煎に染めたものを入れて、30分ほど揉んでいきます。
すると・・・

グレーのシャツの色がどんどん変化していって、紫がかってきました。
煮染めと鉄媒染を繰り返すのですが、どんどん色が深まっていき、なんとも言えない奥行きのある色味になりました。

私たちは、こうした前段階での実験を何度も重ね、そして染めの色や色の強さ(堅牢度)を検証した上で新しい色を出すかどうか決めていきます。

植物の成長は自然の循環の中にあるので、急いで新色を出すこともありません。1年の季節の巡る中で育っていく草木花(あるいは虫コブ)のペースに合わせた染めになるので、ゆっくりとじっくりとやっていくことになります。

だから、たくさんのものを早く作る、という現在のアパレル業界の常識の中ではなくて、少しだけど丁寧に、自然の恵みをいただきながら服を作っています。

一枚一枚手で染めて、一枚一枚お届けする。
それを大切に長くお使いいただける方に出会えると嬉しいなと思います。